実は出版されてからかなりたっているのですけど、2010年に発刊された3巻を今ごろ読了しました。
まぁ、アイディアとしてはよくある入れ換わり物とタイムパラドックス物で魔法物なんですけど、結構設定や人物が作り込まれていておもしろいんです。
時間がテーマになっているんですが、魔法であっちこっち時間が飛びまわっていておもしろいです。
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電撃文庫から出てるから一応ラノベなんですけど、作者の壁井ユカコは結構実力がある人だと思います。イラストは1巻だけ デンソー で 2巻と3巻は 村上ゆいち が担当しています。 村上ゆいち の絵の方がいいかなぁ。
残念ながら、お金の都合で続巻が出さなくなっているみたいです。
まだまだこれから、という感じだったんだけどなぁ。
電撃文庫に抗議のメールでも送るか。。
ちょっと前に読んだのですけど、同じ作者のカスタム・チャイルド ―罪と罰―も、かなりシリアスな内容でしたが、おもしろかったです。
おすすめしておきます。
上で挙げたクロノ×セクス×コンプレックスではタイムパラドックスと平行宇宙の両方を扱っているんですが、3巻ではバタフライ効果が重要なキーワードになっています。
蝶が羽を動かしたときの風がまわりまわって大きな結果となってしまう、という、イメージ的には風が吹くと桶屋が儲かる的な感じですが、こちらは物理現象として巨大な結果が生じるというものです。
以前書いた、10月30日の日記でも、ちょろっとタイムパラドックスについてのことを書いたのですけど、このときはそういえばバタフライ効果 butterfly effect のことは忘れていたな。
名称の由来はウィキペディアによるとエドワード・ローレンツ博士の講演のタイトルであった『予測可能性-ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか』"Does the flap of a butterfly’s wings in Brazil set off a tornado in Texas?" から来てるそうで。
いわゆるところのローレンツ・アトラクターとかが有名ですね。
英語版のウィキペディアによると、ローレンツは実際に気象に関するコンピューター・シミュレーションを行っていたときに、初期値をちょろっと変えてみたところ、全然違う結果が出ていたということで。
いわゆるカオス理論というやつなんですが、数式でちゃんとあらわせるような現象を解くと、初期値によって結果が予測がつかないものになる、というものです。
古典的にはいわゆる三体問題で知られていますね。
ニュートン力学で、二つの物体だけしかないときの重力の作用による物体の運動は厳密に解けるんですよ。運動は必ず平面内にあって、物体の軌跡は重心から見ていずれかの円錐曲線になります。つまり、楕円、放物線、双曲線ですね。月や惑星の軌道が楕円になる、というのはここから来ています。時々刻々の物体の位置・速度は厳密に数式で表すことができるので、いつ、どこに物体がいるかは厳密に決定されます。
ところが、二つじゃなくて三つの物体があったときはどうなるか。
この場合は運動方程式を一般的には解析的に解けないので、数値積分するしかないのですが、これがまた結果が厳密に解けなくなるんですよね。それこそ初期値をちょっと変えると、全然違う軌道になってしまうんです。
まぁ、こんなことが起きるのは、質量の大きな天体が近接して存在する連星系の周囲を回る惑星のような場合であって、太陽系の場合は惑星同士の距離が離れているので、近似的には二体問題で軌道を決定できるのですがね。
もちろん、厳密な計算のためには他の天体からの重力の影響を摂動という手法で取り込んで計算する必要がありますが。
何を言いたいかというと、結構身近な現象として、このようなカオスな現象は起こりうるということで。
非線形微分方程式を扱うときは、この手のカオスは避けて通れない問題ですね。通常は線形として解析的に解いてしまうものですけど、シミュレーションするものは大抵非線形ですね。
で、元のタイムパラドックスの話に戻るのですけど、過去に戻るということは、この初期値に影響を与えるものになるわけで、その時点でその後の歴史というのは厳密には元いた未来とは違うものとなります。それこそバタフライ効果ですね。
そこで、ある程度の傾向を持った結果の周囲で振動するか、それとも全然違う結果となるかは、文字通り予測がつかないんですよね。
まぁ、このことをひとことで言ってしまえば、そもそもタイムパラドックスなるものは発生しないということですね。
過去に戻った時点で、未来は変わってしまうわけです。
もちろん、過去の戻ったときの条件が、厳密に前のターンと数学的に同一の物理条件であったなら、未来を再現可能ですけど。理論的には。
ただ、そんな条件は再現できるのか。
素粒子レベルで言うと、物理現象は本質的に確率的に発生するので、必ず観測ごとに違う結果となります。
おそらく、過去に戻ったときに、全宇宙の物理状態が全て前のターンと同じになる確率は原理的に0でしょうね。古典的な量子力学の問題と考えても、全宇宙の状態ベクトルは限りなく多くの状態ベクトルの重ね合わせとなるので、同じ観測結果を取ることはまずありえませんね。モダンな物理についてはよくわからないのですけど、もっと色々な要因がからまってくるはずなので、事実上0なんではないでしょうか。
それだけの初期値の差があれば、程度の差はあれ、未来は変わってくるわけで。
そういうわけで、SFではバタフライ効果は良く取り上げられるみたいですね。
ちなみに、カオスとは違うのですが、二体問題の場合で相対論的効果を考慮すると、実は軌道は単純な楕円にはなりません。
重力の効果で、空間における距離の計測結果が変わってくるので、楕円の近日点が移動していきます。
特に顕著なのが水星の近日点の移動で、19世紀までの観測の段階で、上記の摂動の影響を考慮しても、誤差範囲以上の近日点の移動があることがわかっていました。(この時点でちゃんと摂動が入っていたことには注目。)
近日点の移動は、一般相対性理論で計算した場合に、ぴったりと理論的に計算した結果と観測結果が一致します。
これが、相対性理論が正しいことのひとつの証拠とされていますね。
まぁ、余談の余談なんですけど、この一般相対性理論の効果は地球の回りを回る衛星にも影響を与えているので、厳密な時刻測定が必要となるGPSによる位置測定のためにはこの一般相対性理論の効果の補正を加えないと、正確な位置情報が得られません。(聞いたところでは、極初期の軍事目的の実験で用いられたときはこの補正を行わなかったので、かなりの誤差が出たんだとか。)
まぁ、物理の問題は、一見自分と関係なさそうに見えても、かなり身近な問題なのですね。
ということで。